AV業界改革推進有識者委員会 提言

委員会からの提言

私たち、AV業界改革推進有識者委員会(以下、本委員会)は、2016年3月に発表された特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ(以下、HRN)の報告書、それに端を発した適正AV業界(以下、業界)に対するさまざまなご指摘及び2017年3月の内閣府男女共同参画会議からの報告書を受け、これを適正AV業界に課せられた健全化維持に向けた刷新の機会と捉え、刷新策の履行を促すために発足した第三者機関としての改革推進有識者委員会として、適正AV業界の各団体及び各団体の加盟者に向け、以下のことを提言する。
1.この業界に属する各団体、各団体の加盟社、グループ及び個人(以下、団体等)は、適正AV制作の人材募集から販売までの各工程において、人権、特に出演者等の自己決定権には特段の配慮をし、あらゆる業務を進めなければならない。
2.団体等は、映像文化の一翼を担うものの誇りと矜持を持ち、優れた映像創作を目標に、業界の刷新及び日常の業務に取り組まなければならない。
3.団体等は、これまでの業界の旧態依然とした慣行について、抜本からの見直しを図り、根源的な改革を断行しなければならない。
4.本委員会が制定する「適正AV業界の倫理及び手続に関する基本規則」に基づき、団体等は真摯に業界の健全化を目指さなければならない。
5.団体等は、各種法令を守ることはもちろんのこと、法規制より高邁な倫理観をもって業務に取り組まなければならない。
6.団体等は、制作に関わる各工程において、健康及びメンタルを含めた安全面に特別の留意をして、万全な安全対策を施さなければならない。
7.団体等は、それぞれが「コンプライアンスプログラム」を策定する。団体等と本委員会は連携及び分担をして、その実施と点検、見直しを不断に行っていかなければならない。
8.団体等は、その制作する作品が成人指定商品であることを十分に認識し、見たくない人に配慮した徹底したゾーニングの策を講じなければならない。また、LGBTをはじめとした多様な性の在り方に対して、必要な情報を提供するなど、社会的な責任を果たさなければならない。

平成29年4月1日

代表委員 志田 陽子
委 員  河合 幹雄
委 員  山口 貴士
委 員  歌門  彩

AV人権倫理機構 規則

適正AV業界の倫理及び手続に関する基本規則

総 則
 AV人権倫理機構(以下、本機構)は、制作メーカー、プロダクション、流通、配信などのAV業界に対して、平成29年4月1日に本機構の前身であるAV業界改革推進有識者委員会が発表した提言に基づいて、業界の刷新を統括する組織であり、本機構に参加する各団体、各団体の加盟者、グループ及び個人(以下、団体等)は、適正AV業界(以下、業界)の刷新、健全化のために、総力を挙げてこれまであった問題点を解決し、広く社会に認められる業界にするために尽力しなければならない。なお、本規則は、業界の健全化を推進するための「ものさし」とし、団体等がそれを厳守することはもちろんのこと、常に見直しを図り、社会に適応した判断基準として逐次修正を施し進めていくものとする。
目 的
 本機構は、業界外部有識者等の第三者で構成され、業界の健全化を推進するために提言をおこない、提言内容を不足なく迅速に遂行するために、業界における団体間の連携を促し、同業界が自律的に健全化を推進するための助言及び指導をおこなう。加えて、その指針となる規則を制定し、更なる業界の発展と健全化に寄与することを目的とする。
語句の定義
・AV人権倫理機構
平成29年4月に発足したAV業界改革推進有識者委員会の後継組織としてその業務を受け継ぎ、平成29年10月1日に発足した非営利の任意団体である。業界の改善に向けたさらなる取組みを行い、業界自身の自浄努力により一層の健全化を図ることを主眼として、第三者的な委員会として活動するという方針を継続している。
活動としては、「出演者の人権に適正に配慮して制作された作品が「適正AV」である」という考え方に基づいて、提言及び規則を具体化し、表現内容以外の「作品制作から販売に至るまで」のプロセスの適正化を業界に求め、推進している。
・適正AV
成人向け映像(アダルトビデオ)の総称としては「AV」が一般には認知されているが、ここで敷衍する適正AVとは、プロダクション、メーカーが出演者の人権に適正に配慮された業務工程を経て制作され、正規の審査団体または指定倫理団体の厳格な基準を満たし、認証され製品化された映像のみをいう。無審査映像、海外から配信される無修正映像、著作権侵害の海賊盤及び児童ポルノは、適正AVの範疇には入らない。国内の法規制に則り、確かな契約を取り交わして作られ、著作権の所在が明確であり、指定の審査団体または倫理団体において審査され、または基準を満たしたと認証され、業界のルールに従い且つゾーニングされて販売またはレンタルされ、映像の出演、制作及び販売・レンタルの責任の所在が明確なものだけを合法な適正AVと称する。なお、将来的には適正AV=AVとして社会認知されることを目指す。
・メーカー
成人向け映像制作の事業者であり、かつ本機構の会員であるメーカー団体に加盟している法人、個人を指す。
・プロダクション
適正AVへの出演を含む映像作品、写真作品、放送、通信、舞台、イベント及び広告等に出演し、また執筆活動を行う等のタレント活動をするタレント、出演者及び表現者の活動をマネージメントする事業者であり、本機構の会員であるプロダクション団体に加盟している団体、個人をいう。
・AVAN
AV女優の人権を守り、AV女優が真に自由な意思決定を以ってAVに出演できる環境を担保する事を目的に、AV出演の意思確認書、重要事項説明チェックシートの発行と保管及び契約書(プロダクション-女優間)の保管業務、女優のID発行と二次利用に関する報酬の管理・支払、HOTLINEの受付、という機能に集中し、その機能に特化した非営利の任意団体である。
・流通
メーカーが製作した商品を消費者に販売するまでの問屋、卸し、販売店またはレンタル店などを指し、風営法等をクリアし、区分販売または貸出を行っている事業者であり、インターネット上での店舗販売も含まれる。
・配信
成人向け映像作品を、インターネット等を通じ、ユーザーの携帯電話、スマートフォン及びパソコン等に送信(ダウンロード、ストリーミングなど)し、映像を視聴できる仕組みを提供する事業者を指す。
・二次利用
公表(販売)済みの撮りおろし作品及びその映像の一部を、再度編集を加えてオムニバス等で使用することをいう。また、他の販売媒体で作品に編集を加えて販売した際も二次利用とみなす。
・CS
衛星放送チャンネルの総称であるが、ここでは成人向け番組を編成し放送する放送事業者、番組供給事業者及びケーブルTV事業者を指す。
・フリー女優
フリー女優とは、AV業界においていわゆるプロダクションとはマネジメント契約等を締結せず活動をしている女優であり、個人又は個人会社(当該個人が設立した会社)で映像制作会社と直接契約を取り交わし、その上で演技を行い、対価を映像制作会社から受領する演技者をいう。なお、前述の個人会社とは、当該女優が個人の事業のために設立した法人で、当該女優が2/3以上の株式、持分権を有し、本人以外の女優とマネジメント契約等を締結していない法人をさす。
<業界が守るべき規則>
第1条 本機構の役割と抜本改革
本機構は、第三者性のある任意団体という位置付けで、業界の抜本的な改革を推し進め、業界の刷新、健全化を後押しして、業界内における出演者等の自己決定権をはじめとする人権が十分に尊重され、脱法行為等が根絶される基盤を確立し、業界の更なる発展を後押しするための施策を提案し、その実行を促す役割を担う。
第2条 自己決定権の尊重
団体等は、出演者を含む実演家の人権擁護には特段の配慮をするとともに、自己決定権を最大限尊重し、これを制度的に担保した上で、業務に取り組むものとする。また、第12条で敷衍する映像制作時の安全面及び衛生面にも細心の注意を払うものとする。
第3条 加盟義務
業界に所属するタレントの人材発掘から、制作、販売(以下、配信等を含む)に至るまでの団体等は、本機構が提唱する適正AVの枠組みに入り、業界の刷新及び健全化に協力貢献する。
第4条 遵 守
本機構に加盟した団体等は、各種の法令条例等はもちろんのこと、当機構で定められた本規則、通達等を遵守して、それぞれの業務に当たらなければならない。
第5条 映像制作のすべての過程において
制作時には、事前に作品内容および撮影内容について、実演家と制作者を含む当該関係者間で合意し、その上で撮影を行なうこととし、撮影時には、意に沿わない演技等に対して、正当な理由をもって出演を打ち切ることができるよう契約に織り込む。また、事前に打ち合わせていない、または台本にない行為は禁止するとともに、性表現上の行き過ぎた行為については、当事者間の合意があっても慎重にすることとする。  第7条にある契約を、それぞれの当事者、特に出演者が十分に理解するための機会と時間を与えられた上で、不当な圧力や圧迫を受けることなく自由意思をもって締結してはじめて撮影が可能であることを理解する。
第6条 可視化
プロダクション並びにメーカーの各事業者は、作品制作にかかわる過程、特に意思決定時において、可能な限り映像で保存をし、問題が発生した場合には、その映像を判断材料に供せるようにする。映像は一定期間保存し、団体等が出演者の自己決定権が尊重されているかを検証するために、プロダクションと実演家の契約時、制作前のメーカーの面接時、契約書(別名の実質的契約書を含む、以下同じ。)締結時、制作に関する打ち合わせ時、制作時、撮影終了時などの可視化は必要であり、それを義務化する。
第7条 契 約
団体等間における個別の契約については、AV出演者等の自己決定権に配慮されて作られた本機構が定めた共通契約書を使用し、撮影時より相当期間前に、それをもって契約をすることとする。なお、契約を交わした際には、必ずそれぞれの当事者に締結した契約書を手交し、当事者はその当該契約書を保管する義務を負う。メーカーやプロダクションは、出演者から契約書の写しの交付を求められた場合には、これに応じなくてはならない。
第8条 著作権および二次利用
制作した作品ごとの著作権および著作隣接権の帰属先を明確にする。その作品の二次利用については、別途定める方法で出演者に二次利用に関する報酬を支払うものとする。
第9条 映像作品の扱い
出演者から出演作品の販売等に関する問い合わせ等があった際には、それが正当な理由である場合には、メーカー、流通、配信、CSの責任者は、誠実に対応するものとする。また、その際の条件等については、出演者とメーカー間で話し合いを行うものとする。特に、当機構の作品販売等停止申請制度の運用に際しては、メーカー・プロダクションはその円滑な運営に協力するものとし、当機構の勧告についてはこれを最大限に尊重しなくてはならない。
第10条 窓 口
AVANは、業務改善のために公益通報者保護法上の内部通報制度の窓口を兼ねるホットラインまたは相談通報窓口を設けるものとする。
第11条 商行為
団体等間の契約を明確にし、とくに出演料及びマネージメント委託料等の金銭面については、プロダクション、メーカー及び出演者等の当事者間で明確な開示を行い、不透明なやりとりの排除及び納税義務履行の徹底を図るものとする。
第12条 安全および衛生への配慮
団体等は、各工程におけるさまざまな安全対策には万全を期し、とくに制作時における怪我および性感染症を含む各種病気の罹患等を予防するとともに、侮辱、ハラスメント、望まぬ演技の強要等によって、出演者等の精神面の健康が損なわれることのないよう、最大の注意を払わなければならない。
また、これまでも行ってきた出演者をはじめとする制作関係者の年齢確認をさらに厳格に実施し、複数の方法で確認を行うようにして、その証を関係者等が個人情報として保護をし、厳重に保管しなければならない。
第13条 コンプライアンス
団体等は、それぞれの規模およびガバナンスの状況に応じて、本機構が制定した本規則及びその他のルールを取り入れた業務プロセスを新たに確立すると共に、関係者個々人のコンプライアンス意識を更に高め、周知徹底させなければならない。本機構と団体等は、連携して、その実施、点検および見直しを不断に行っていく。
第14条 審 査
制作した映像は、本機構が指定する、第三者機関として存在する審査団体または指定する倫理団体において厳格な基準を満たした上で販売するものとし、未審査作品および基準未達の作品は取り扱わない。
第15条 反社会的勢力
団体等は、自ら及び自らの役職員等関係者が反社会的勢力ではないことを確約するとともに、反社会的勢力との取引慣行は厳禁し、その強要等があった際には取締り当局に通報することとする。
第16条 法人化
本機構は、任意団体(人格なき社団)として存立し、今後においては、しかるべき時点で法人格の取得を目指すことも視野に入れる。
第17条 罰 則
本規則等に違反した場合には、本機構が別途定める罰則規程に従い厳粛に対処し、悪質な違反業者及びその役員並びに支配的株主については当該適正AV業界からの退席を促すものとする。
第18条 ワーキンググループ
本機構は、本規則及びその他のルールの確実な執行を監視するために、またその実行を担保するために、必要に応じてワーキンググループを設けることとする。